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デジタル資産の相続と保護 ― FP×セキュリティで考える対策フレームワーク

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相続の準備というと、不動産や預貯金、有価証券といった「目に見える」資産を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし今の時代、資産の一部は画面の向こう側にしか存在しません。オンライン証券口座、暗号資産ウォレット、クラウドに保存された写真、サブスクリプションサービス――これらはまとめて「デジタル資産」と呼ばれ、存在自体が家族の目に触れにくいという特有の性質を持っています。この記事では、ファイナンシャルプランニングとセキュリティ、両方の視点からデジタル資産を守り、相続時に確実に引き継ぐための考え方を整理します。

本記事は一般的な情報提供であり、個別のアドバイスではありません。 デジタル資産の種類・保有状況は人によって大きく異なります。実行にあたっては、資産の内容に応じて税理士・弁護士・セキュリティ専門家にご相談ください。

なぜデジタル資産は相続で見落とされやすいのか

紙の通帳や不動産の権利証は、物理的な形があるため、遺品整理の過程で自然と目に入ります。しかしデジタル資産は違います。

暗号資産は相続税法上、財産的価値のある資産として相続税の課税対象に含まれます。しかし、家族がその存在自体を把握していなければ、そもそも申告の対象にできず、結果として資産が実質的に失われてしまうリスクがあります。

生前にできる備え:デジタル資産インベントリの作成

このリスクに対する最も基本的な備えは、デジタル資産のインベントリ(一覧)を作っておくことです。ここで重要なのは、パスワードそのものを一覧に書き込むことではなく、「どこに・どうアクセスすればよいか」の道しるべを残すという発想です。

インベントリに含めるとよい項目の例:

このインベントリ自体は機密性の高い情報ですから、保管方法にも注意が必要です。紙にすべて書き出して誰でも見える場所に置くのではなく、貸金庫、弁護士への預託、あるいはパスワードマネージャーの「緊急アクセス(emergency access)」機能のような、アクセス制御された仕組みを活用することをおすすめします。

パスワードマネージャーの緊急アクセス機能を活用する

多くのパスワードマネージャーには、あらかじめ指定した信頼できる人物(家族や弁護士など)が、一定の待機期間を経たうえでアカウントへのアクセス権を得られる「緊急アクセス」または「レガシー(遺産)アクセス」機能が用意されています。

この仕組みのメリットは、平時にはパスワードそのものを共有せずに済む点です。本人が生きている間は誰もアクセスできず、緊急アクセスをリクエストしてから一定期間(多くの場合数日〜数週間)が経過するか、本人が拒否しなければ、初めて指定した人物がアクセスできるようになります。これにより、「万が一のときの備え」と「平時のセキュリティ」を両立できます。

パスワードを付箋や平文のメモとして残したり、複数の家族に個別に少しずつ共有したりする方法は、平時の漏えいリスクを高めるだけでなく、実際に必要になったときに情報が分散していて集約できない、という別の問題も生みます。緊急アクセス機能のような、集中管理された仕組みを使うほうが望ましいと言えます。

暗号資産の秘密鍵・シードフレーズの管理

暗号資産を保有している場合は、特に慎重な備えが必要です。秘密鍵やシードフレーズは、それ自体が資産への直接的なアクセス手段であるため、パスワード以上に厳重な管理と、同時に「自分が亡くなったときに信頼できる人が引き継げる」設計の両方が求められます。

考え方の一例として、次のような多層的なアプローチがあります。

暗号資産の管理方法は技術的な専門知識を要する領域であるため、保有額が大きい場合は、相続を見据えた管理体制の設計についてセキュリティ専門家に相談する価値があります。

相続発生後:デジタル資産へのアクセス回復

実際に相続が発生した場合、相続人が直面する課題は大きく2つに分かれます。

  1. **資産の存在をどう把握するか。**生前にインベントリが用意されていれば、この段階は大幅に楽になります。用意されていない場合は、故人のメールの受信履歴(各サービスからの通知メールなど)、確定申告の控え、銀行口座からの定期的な引き落とし(サブスクリプション費用など)といった間接的な手がかりから、保有していたサービスを推測していく作業が必要になります。
  2. **アクセス権をどう取得するか。**サービスごとに、死亡時のアカウント引き継ぎ・削除に関するポリシーが異なります。一部のサービスは死亡診断書などの提出により相続人へのアクセス移管に対応していますが、対応していないサービスも少なくありません。暗号資産ウォレットのように、秘密鍵が分からなければ原理的にアクセス不能なものもあります。

このプロセスは、通常の銀行口座・証券口座の相続手続きと比べて、サービスごとに手順もスピードも大きく異なるため、時間がかかりやすい領域です。だからこそ、生前のインベントリ作成と緊急アクセス設定という「備え」が、相続発生後の負担を大きく左右します。

FPとセキュリティ、両方の視点を持つ意味

ファイナンシャルプランニングの視点だけでは、「デジタル資産にどれだけの価値があり、相続税上どう扱われるか」までは分かっても、「そもそもそこにアクセスできるか」という技術的な壁は見えてきません。逆に、セキュリティの視点だけでは、認証情報の保護は徹底できても、それが将来の相続にどう影響するかという資産承継の視点が抜け落ちがちです。

デジタル資産の相続対策は、この2つの視点――「資産としての評価・税務上の扱い」と「アクセス手段の保護と引き継ぎ設計」――を組み合わせて初めて機能します。どちらか一方だけでは、資産を守ることも、確実に引き継ぐこともできません。

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2026-07-19 時点の一般的な実務慣行に基づき作成。個別の資産構成に応じた対応は専門家にご相談ください。

よくある質問

デジタル資産とは具体的に何を指しますか?

オンライン銀行・証券口座、暗号資産(仮想通貨)ウォレット、電子マネー、サブスクリプションサービス、クラウドに保存された写真や文書、SNSアカウント、パスワードマネージャーに保存された認証情報などが含まれます。紙の通帳や証書と違い、存在自体が家族の目に触れにくいのが特徴です。

暗号資産は相続税の対象になりますか?

なります。暗号資産(仮想通貨)は相続税法上、財産的価値のある資産として相続税の課税対象に含まれます。ただし秘密鍵やウォレットへのアクセス手段を家族が把握していなければ、資産の存在自体が分からず、申告漏れや資産の実質的な消失につながるリスクがあります。

パスワードを家族と生前に共有しておくべきですか?

パスワードそのものを直接共有するのはセキュリティ上のリスクがあります。推奨されるのは、パスワードマネージャーの緊急アクセス機能や、信頼できる第三者(弁護士・家族)に安全な形でマスターパスワードの所在を伝えておく方法です。パスワードを平文でメモに残したり、複数人に別々に共有したりするのは避けましょう。

デジタル資産のインベントリ(一覧)は何を記録しておくべきですか?

口座・サービスの名称、URL、おおよその資産価値、ログインに使うメールアドレス、二要素認証の設定状況、アクセス手段(パスワードマネージャーの利用有無)を記録しておくとよいでしょう。パスワードそのものを一覧に直接書き込むのではなく、『どこに・どうアクセスすればよいか』の道しるべとして機能させることがポイントです。

著者について

TCL ファイナンシャル・プランニング編集部

日本の法制度・公的統計・相続/贈与の実務を、ファイナンシャルプランナー(FP)の視点で世界に向けて解説する編集チーム。一次情報(国税庁・厚生労働省・e-Stat 等)に基づく。

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