配偶者の税額軽減とは ― 1億6千万円の非課税枠と「二次相続」で損しない考え方
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日本で配偶者を亡くした方、あるいは将来そうなる可能性を考えている方にとって、相続税の制度の中でも特に大きな意味を持つのが「配偶者の税額軽減」です。うまく使えば配偶者自身の相続税をほぼゼロにできる強力な制度ですが、「配偶者に全部相続させれば一番お得」と単純に考えると、実は家族全体で見たときに損をすることがあります。
本記事は一般的な情報提供であり、個別のアドバイスではありません。 税制は改正されますし、各家庭の財産構成・家族構成によって最適な選択は異なります。数値は2026年時点のもので、国税庁(NTA)の情報に基づいています。実行前には必ず税理士にご確認ください。
配偶者の税額軽減とは何か
配偶者の税額軽減は、被相続人(亡くなった方)の配偶者が遺産分割や遺贈によって実際に取得した正味の遺産額のうち、次のいずれか多い金額までは相続税がかからないという制度です(国税庁 No.4158)。
- 1億6千万円
- 配偶者の法定相続分相当額
この2つのうち大きいほうが基準になるという設計がポイントです。財産総額がそれほど大きくない家庭では1億6千万円という定額が効きますが、財産総額が数億円規模になる家庭では、配偶者の法定相続分(例えば配偶者と子2人が相続人なら、配偶者の法定相続分は遺産の2分の1)のほうが1億6千万円を上回ることもあります。この場合は、法定相続分相当額まで非課税になります。
つまり理論上は、配偶者がいくら多額の財産を取得しても、それが法定相続分の範囲内であれば、配偶者自身の相続税負担はゼロになり得るということです。
適用を受けるための条件
配偶者の税額軽減を受けるには、いくつかの条件があります。
- **戸籍上の配偶者であること。**内縁関係(事実婚)の相手は対象になりません。婚姻期間の長さは問われません。
- **相続税の申告書を提出すること。**この軽減は自動的に適用されるものではなく、申告書の提出によって初めて適用されます。軽減の結果、納税額がゼロになる場合でも、申告書の提出は必要です。
- **申告期限までに遺産分割が完了していること。**原則として、相続税の申告期限(後述)までに配偶者が取得する財産が確定していなければ、税額軽減の対象になりません。ただし、申告期限までに分割が終わらなかった場合でも、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出したうえで、期限から3年以内に分割が完了すれば、遡って税額軽減を受けられます(国税庁 No.4158)。
相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内です(国税庁 No.4205)。海外に住む相続人にとっては、戸籍謄本の取り寄せや財産の把握に時間がかかりやすく、この10ヶ月という期間は決して長くありません。早めに専門家へ相談することをおすすめします。
「配偶者にすべて相続させる」が最適とは限らない理由 ― 二次相続の罠
配偶者の税額軽減の効果が大きいだけに、多くの家庭で「とりあえず配偶者に多く、あるいはすべて相続させておけば税金がかからない」という判断がされがちです。しかし、これは一次相続(今回の相続)だけを見た場合の最適解にすぎません。将来の二次相続(配偶者自身が亡くなったときの相続)まで含めて考えると、話は変わってきます。
二次相続で税負担が重くなりやすい理由は主に2つあります。
- **配偶者の税額軽減が使えない。**二次相続では、財産を受け継ぐのは子などであり、配偶者はもういません。つまり、一次相続で配偶者が使えた1億6千万円(または法定相続分)の非課税枠は、二次相続では存在しません。
- **基礎控除が小さくなる。**相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という式で計算されます(国税庁 No.4102、No.4152)。一次相続で法定相続人が配偶者と子2人の3人だった場合の基礎控除は4,800万円ですが、二次相続では配偶者が相続人から外れるため法定相続人は子2人の2人になり、基礎控除は4,200万円に減ります。
その結果、一次相続で配偶者に財産を集中させすぎると、配偶者の財産(もともとの固有財産+一次相続で取得した財産)が二次相続時に大きく膨らみ、より小さな基礎控除・より少ない相続人数のもとで課税されることになり、一次相続と二次相続を通算した家族全体の税負担がかえって重くなるケースがあります。
考え方の整理
一次相続の遺産分割を決める際には、次のような視点を持つことが有効です。
- 配偶者自身の老後の生活資金・住居の確保を最優先に考える(税金だけを理由に配偶者の取り分を減らすべきではありません)。
- そのうえで、配偶者の固有財産や将来受け取る年金等も踏まえ、二次相続時点で配偶者の財産がどの程度になりそうかを大まかにシミュレーションする。
- 一次相続・二次相続の合計税額を試算し、配偶者と子への配分バランスを検討する。
これは単純な計算式で機械的に決まるものではなく、家族構成・財産の種類(自宅か金融資産か)・配偶者の年齢や健康状態などによって最適解が変わります。一次相続の遺産分割協議の段階で、二次相続まで見据えたシミュレーションを税理士に依頼する価値は十分にあります。
海外在住・国際family のケース
配偶者の税額軽減そのものは、配偶者や相続人の国籍・居住地にかかわらず適用され得る制度です。ただし、相続税の課税対象となる財産の範囲(全世界財産か日本国内財産のみか)は、被相続人・相続人双方の居住地・国籍によって変わります。この点は日本の相続税 完全ガイドおよび日本の相続税 非居住者ガイドで詳しく解説しています。
海外に居住する配偶者が日本の相続税の申告義務を負う場合、申告書の提出・納税は日本国内で行う必要があり、必要に応じて「納税管理人」を選任する手続きも発生します。国際結婚家庭や、配偶者が海外居住者であるケースでは特に、早い段階での専門家への相談をおすすめします。
次に読む
- 相続税制度の全体像は日本の相続税 完全ガイドをご覧ください。
- 海外在住の相続人・被相続人に関わるルールは日本の相続税 非居住者ガイドで解説しています。
- 生前贈与を活用した対策は日本の贈与税 2024年改正まるわかりをあわせてご確認ください。
参考情報
- 国税庁 ― 配偶者の税額の軽減(No.4158): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm
- 国税庁 ― 相続税がかかる場合(基礎控除、No.4102): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4102.htm
- 国税庁 ― 相続税の計算(No.4152): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
- 国税庁 ― 相続税の申告と納税(申告期限、No.4205): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
2026-07-19 に国税庁の情報と照合済み。
よくある質問
配偶者の税額軽減はいくらまで非課税になりますか?
配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産のうち、1億6千万円と配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額まで、相続税がかかりません。財産額が大きい家庭では、法定相続分(例えば配偶者と子2人なら遺産の2分の1)のほうが1億6千万円を上回ることもあります。
配偶者の税額軽減を使えば相続税は必ずゼロになりますか?
配偶者本人の相続税はゼロ、あるいは大きく減額されますが、家族全体の相続税がゼロになるとは限りません。子など他の相続人が取得した財産には、通常どおり相続税がかかります。また、配偶者にすべて(または多く)相続させると、配偶者が亡くなった際の『二次相続』で子の税負担が増えることがあります。
配偶者の税額軽減を使うために必要な手続きはありますか?
相続税の申告期限(原則、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに遺産分割を終え、相続税の申告書を提出する必要があります。申告期限までに分割が終わっていない財産は、原則として軽減の対象になりません。ただし、申告期限から3年以内に分割が完了すれば、税額軽減を受けられる例外規定があります。
配偶者の税額軽減を使うと、相続税がゼロでも申告は必要ですか?
必要です。配偶者の税額軽減は、相続税の申告書を提出することで初めて適用される制度です。軽減の結果として納税額がゼロになる場合でも、申告書の提出そのものは省略できません。
二次相続とは何ですか、なぜ問題になるのですか?
最初の相続(一次相続)で配偶者が財産を多く取得すると、その配偶者が亡くなったとき(二次相続)に、遺産を受け継ぐ子には配偶者の税額軽減が使えず、相続人の数も1人減ることで基礎控除も小さくなります。結果として、一次相続と二次相続を合計した家族全体の税負担が、一次相続で配偶者と子にバランスよく分けた場合より重くなることがあります。
著者について
TCL ファイナンシャル・プランニング編集部
日本の法制度・公的統計・相続/贈与の実務を、ファイナンシャルプランナー(FP)の視点で世界に向けて解説する編集チーム。一次情報(国税庁・厚生労働省・e-Stat 等)に基づく。